自分のペースで自由に生活できる憧れの一人暮らしの始まり。しかし、期待に胸が膨らむ反面、一人暮らしを始めようと思っている方の多くが「一人暮らしって怖いことが多いのでは……?」と不安を抱えているようです。
今回は、実際に起こった一人暮らしの怖いエピソードの中で、防犯にまつわるものを3つ紹介します。皆さんが安全・安心に一人暮らしをするための参考になればと思います。
※名前はすべて仮名、本人の話をもとに筆者がエピソードを構成しています。
夜中に玄関を叩く大きな音で目が覚めて……
<東京都内・一人暮らし2年目 女子大生Aさん>
大学進学と同時に東京で一人暮らしを始めたAさん。Aさんの住まいは駅から歩いて5分程、近くには居酒屋や風俗街があり治安はあまり良い場所ではありませんでしたが通学の便利さからこの場所を住まいに選びました。
毎日大学が終わると、近所のコンビニで22時までアルバイトをしていたAさん。帰る頃には外は真っ暗ですが、バイト先から家までの距離が近いので怖い思いをすることはありませんでした。
ある日、帰宅してシャワーを浴び、布団に入って寝ようとした時のことです。
ドンドンドン!ドンドンドン!
玄関の方から大きな音がして、思わず飛び起きました。
Aさんの部屋は、玄関の隣に磨りガラスの大きな窓があり、外の様子がぼんやりと見えるようになっています。
「こんな時間に誰だろう……」
不安になって音のする方まで行ってみると、磨りガラス越しに黒い洋服を着た男性のシルエットが見えました。悲鳴を上げるのをこらえ、玄関の鍵がしまっていることを確認してベッドまで戻って一呼吸。もしかすると隣の部屋の住人が酔っ払って玄関を間違えてしまったのかもしれないと思い、警察に通報することを躊躇いました。
悩んでいる間にも扉を叩く音は鳴りやまず、なにやら「なんで開けてくれないんだよ~」と喚く男の声も聞こえます。一瞬、扉を開けて「家を間違えていますよ」と声を掛けるべきか悩んだAさんでしたが、そこへタイミングよく彼氏からメールが来ました。メールの用件は他愛もないことでしたが、今起こっていることを彼氏に相談すると、「絶対に警察を呼ぶべきだ」という判断のもと彼がAさんに代わって通報してくれました。
しばらくすると玄関を叩く音は鳴りやみ、入れ違いで警察官がやってきました。最近、この辺りで不審者の目撃情報もあるので夜は絶対に鍵をかけて過ごしてください、と忠告を受けたAさん。当然ながら、朝まで不安で眠りにつくことができませんでした。
Aさんが震え上がったのは翌朝のことです。朝いちばんに警察から電話がありました。明け方、Aさんの家から200メートルほど離れた公園のベンチで刃物を持った不審な男を捕まえたそうです。男は黒い服を着ていたと聞き、Aさんは昨晩の人物であると確信しました。
もしもあの時、玄関を開けてしまっていたら……そう考えると今でも鳥肌が立つそうです。この事件の後Aさんは、治安の良い住宅街の中にあるオートロック付のマンションに引っ越しを決めました。あの日、あの時間にタイミング良くメールをくれた彼氏にはずっと感謝していて、大学卒業後には一緒に住むことを決めているそうです。
セキュリティー重視がアダとなり……
<神奈川県・一人暮らし7年目 サラリーマンK他さん>
一人暮らし7年目を迎えるK太さん。
実家を出てから3回ほど引っ越しをし、現在は神奈川県の静かな住宅街に住んでいます。都心で仕事をしている人々のベッドタウンとしても人気が高い場所で、渋谷にオフィスのあるKさんも、騒がしい都会から少しだけ離れたこの土地に魅力を感じて引っ越してきました。
K太さんがいちばん重視したのは防犯面。一般的な共同玄関のあるオートロック付きのマンションとは違い、共同のオートロック玄関を抜けると、さらに自分の部屋の前にもオートロック付きの扉が構えられ、その奥に玄関があるという作りになっています。いわば三重の扉です。男性とは言え、防犯に油断することはできないというのがK太さんのポリシーでした。
そんな重厚なセキュリティーによってK太さんが苦しむことになったのは10月の始めの頃でした。その日は土曜日。珍しく休日出勤をしたK太さんは、17時過ぎ頃にマンションに帰ってきました。いつものように家の鍵を出そうとして……鞄の中に鍵が見つかりません。
心当たりは、会社に置いてきたコートのポケットの中です。夕方には気温が上がったため、ロッカーに置きっぱなしにしてしまいました。会社に引き戻そうか悩みましたが、今日は土曜日のため18時以降は社員用の扉が閉まってしまいます。
そこで、マンションの管理会社に電話をしてみることにしました。しかし、土日は管理会社の定休日。そのため電話は繋がりません。
このままでは月曜日まで家に入ることができないのか。K太さんは万策尽きて頭を抱えました。1番目の扉、共同のオートロック玄関ならば同じマンションの住民に頼んで一緒に入れてもらうことはできても、2番目、3番目の扉は自分の鍵でないと開けられません。
最後に頭をよぎったのは、山梨県に住んでいる妹の存在でした。以前、妹が自分のマンションを訪れた時に鍵のスペアを預けたことを思い出しました。
そこでK太さんは急いで妹に電話をし、彼女がマンションの鍵を持っていることを確認してから新幹線に飛び乗りました。
妹の家に辿りついたのは日付が変わる頃。彼女には呆れられましたが、そのまま始発の電車で神奈川のマンションまでトンボ返りをしました。
慌てて新幹線に乗り、山梨まで行ってしまった出来事は、生涯忘れられないとK太さんは話します。
それからしばらくして、鍵の紛失時には管理会社以外にも対応してくれる保険会社や、鍵のトラブルに対応してくれるサービス会社があることを知りました。
一人だからこそ陥りやすい鍵のトラブル。まさか自分を守ってくれるはずのセキュリティーに苦しめられることになるとは。以後彼は、会社を出る前に必ず家の鍵があるか確認する習慣をつけたそうです。
朝起きると…目の前に泥棒!
<東京都・一人暮らし1年目 専門学生Y美さん>
高校を卒業し、都内の芸術系の専門学校に通うため一人暮らしを始めたY美さん。賑やかな下町の一画、見た目はボロアパートでしたが家賃が安く間取りも広く、一目見てこの部屋を住まいに決めたそうです。
Y美さんが何より喜んだのは、生まれて初めて親元から離れ、夜遅くまで友達と遊べることです。社交的な性格だったため、学校では学科の垣根を越えてたくさんの友人ができました。
入学してから1か月経った5月の連休明け、Y美さんは「親交パーティー」と称して自宅に友人たちを呼んで夜通しパーティーをすることにしました。
インターネットのSNSを使い、学校の生徒たちに広く呼びかけたため、違う学年の先輩や、普段は関わりのない留学生までパーティーに参加することになりました。2DKの間取りを持つY美さんの部屋は、友達が10人以上訪れても余裕があります。
地方から出てきた学生もいて、友達を作るきっかけにもなったこの交流パーティーはとても喜ばれました。
翌日はバイトや授業がある人もいたため、深夜にはお開きとなり、みんなが帰った後の部屋でY美さんは倒れ込むように疲れて眠ってしまいました。
翌朝目を覚ますと、Y美さんの目に飛び込んだのは驚くべき光景。昨日パーティーに参加した外国人の女の子が、自分の鞄から財布を抜き取っているところでした。
あまりにびっくりしたため、声も出ないY美さん。女の子は目が合うと、何も言わずに走って家の外に逃げてしまいました。Y美さんはあまりにも唐突の出来事に、しばらく部屋の中で茫然と立ち尽くしてしまったそうです。
その後、警察に通報しましたが、犯人の女性は見つからずY美さんの財布も発見されないままでした。同じ学校の生徒だと思い込んでいた犯人の女性は、学校に在籍している生徒ではなく、SNSでの呼びかけを偶然見てY美さんの家に潜り込んだ人物だと分かりました。
犯人が女性だったこともあり、体に危害を加えられるようなことはなかったものの、この事件は後々までY美さんのトラウマになりました。明るい気持ちで始まった一人暮らしだっただけに、彼女は大きなショックを受けることとなりました。
また、財布も盗まれてしまったため、クレジットカードやキャッシュカード、学生証もなくなってしまい、再発行手続きにかなりの時間を要しました。
このことをきっかけにY美さんは、SNSで家の所在地が分かるような呼びかけをしないこと、夜は必ず玄関の鍵を閉めることなど、多くのことを反省しました。
まとめ
一人暮らし歴が長くなってくると、「ちょっとくらい玄関を開けっ放しにして出掛けてもいいや」「隣にどんな人が住んでいるか知ってるし、カーテンを開けていても平気」など、防犯に対する気持ちが緩んでくるものです。
しかし、一人暮らし歴が長くても、女性でも男性でも事件に巻き込まれる可能性はあります。ちょっとした油断が原因となり、命を落とすような事件に巻き込まれた人もいます。家族がいない状況で暮らすということは、自分の身は自分で守らなくてはいけないということです。
- 部屋の鍵がきちんと閉まっているか
- 隣にはどんな人が住んでいるか
- インターネットで自分の住所が特定されるような情報を発信していないか
- 誰も見ていないからと思い込んで、カーテンを常に開け放していないか
- スペアキーの所在は把握しているか
- 不審者が家の周辺にいないか
など、日頃からアンテナを張って生活することが大切です。また、もしもの時に備えて管理会社や保険会社の電話番号を確認しておくことや、家からいちばん近い警察署の場所を知っておくことも防犯対策をする上で有効です。
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